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観光庁では長きにわたり「広域周遊観光促進のための専門家派遣事業」を実施しています。当方も本事業がスタートした時から専門家として登録の機会をいただいています。2021年度に本施策を実際に活用いただき、取り組んだ事例がございますので、このページを通じて公開できる範囲で、取組内容や具体的なアドバイジング~実行までの詳細をご紹介いたします。
舞台:大阪府 泉州エリア
大阪府はコロナ禍前においてインバウンド顧客が非常に多かった地域の1つです。しかしながら泉州エリア(堺市以南)は大阪市内⇔関西空港を行き来する電車に乗った外国人が素通りしてしまっていた傾向が強く、この状況を打開し「立ち寄らせ」「お金を落とさせ」「宿泊させ」たいという願いがありました。そこで「自然とそのような流れが生まれる」ようにするための戦略立案に重きを置いて取り組みました
助言の基本:やれ、SNSだ やれインフルエンサーだ ではない
この手の話が始まると、すぐに手段の話が出てきて「情報の発信をしましょう」という話に終始する傾向があります。自治体やDMOが思考すべきはそこではありません。まずは観光商材となり得る情報の発掘です。そこで当方からの最初のアドバイスは「まず現在販売をしている、あるいは販売を強化したい観光資源をすべて抽出してください」というものです。(売り手からのアプローチ)
当方はいただいたリストを基に各観光資源をA~Cの3段階に分けました
A すぐに売れる
B 情報の発信や顧客のセグメントで売れる可能性がある
C 販促コストと比較して売上・利益が見込めない
Aについて販売促進を行えば効果が出るのは明らかですが、ここで大切なのはBです。つまりBに何らかのテコ入れをすることで、いままでのところあまり認知度が高くない…あるいは、地元でしか火は付いていない… という商品が一気に人気商品になる可能性を秘めているのです。この考え方を念頭において、取組を進めていきました。
アジアフューチャーのインバウンドの専門は韓国 ではなぜ韓国市場を推奨するのか?
インバウンドの取組をしてきて、効果が今一つの自治体や地域によく見られる傾向は、上記の図に集約されます。新しい市場のために新しい商品を作って売ろうとしている方ばかりです。広域周遊を考えるにあたり最も大切なことは「地元の方々が強く愛してやまず、強く他者へ推奨するか?」と「地元客と日本国内の旅行客がリピートするほど売れているか?」がまず基本です。地元で売れていない商品を他地域の人に売ろうという話は、かなりハードルが高いです。当社では「無理」と断言しております。まずはこの意識統一を地元で図ることが何よりも大切です。
インバウンドを通じて広域周遊観光を実現させたいのであれば、以下の取組が大切です
①徹底 地元そして日本人客への徹底したPRとリピーターづくり。まずは足元を固め、商品のすばらしさを地元客はじめ日本人のお客様と一緒になって作っていくことを繰り返す
②拡充 次に①で作り上げた商品が「そっくりそのまま」売れる外国市場を取り込むことです。新たな市場向けの新たな商品は「在庫リスク」が伴います。②を推奨する最大の理由は、①で生まれた商品の在庫リスク・稼働リスクを最小限にし、PRや販売の手間も最小限にするという目的があります
③開発 ①②の実績ができ、稼げてから初めて新商品を新市場向けに開発することとなります。新たなインバウンド市場を狙うということは、この段階となります。
アジアフューチャーが韓国市場をインバウンド事業で推奨する最大の理由は ②拡充 にちょうど良い市場だからです。
日本人に売れている商品・サービスだけを狙って何度も買いに来るのが韓国人客
コロナ禍前には年750万人が訪れ、そのうちの80%近くがリピーターであった韓国人客。彼らがなぜ何度も日本を訪問するのか??
理由は、韓国側にあります。保護施策による関税、さらには口蹄疫などの伝染病対策から厳しくなった検疫規制など、さまざまな輸入規制を設けている韓国の実情が今もなおあるからこそ、規制の枠を飛び越えて日本で消費してしまおうという強いモチベーションがあるからです。
さらに
国土の狭さに起因する(韓国における)国内旅行文化のとぼしさと、ソウルから見た半径1000km以内の魅力ある国が、日本しかないという現実があるためです。このような現実問題にもとづいて来日してくる韓国人は「辛い物を好む」などの嗜好を要求してきません。日本そのものを買いに来ているからです。
これは換言すると、我々日本の販売者からすれば、「日本人向けに売るものを、そのまま売ればよい」ので、非常に好都合な市場が、わざわざやって来てくれているわけです。
泉州には韓国人客にすぐ売れそうなものが、実はかなりあった。。
前述のA・Bに抽出した泉州エリアのさまざまな素敵な商品のなかで、渡航が再開されたのちに、すぐに売れるだろうと見極めた商品例を1つご紹介します。
この店舗は、関西空港に向かう南海電車が分岐する泉佐野駅の次の駅前にあるパン屋さんHUG BAKERY (ハグベーカリー)です。地元の和菓子屋さんで有名なむか新さんが経営されています。平日の午前から地元のお客様で大行列ができており、おそらく近所の方はみなさん、このパン屋さんが大好きなのだろうということが、すぐにわかる雰囲気がありました。
韓国はいま「パン」が空前の大ブームで、ソウルや釜山にはパン屋さんやパンをベースにしたカフェが多数乱立しています。パンの種類も豊富になりつつあり、10年前の「パンが美味しくない韓国」のイメージが完全に消え去ったと私たちも感じています。しかしながら価格がまだまだ韓国は高く、日本のパン屋さんの価格をそのまま見せれば確実に韓国人客には売れるだろうという目算があります。
さらに、むか新さんが作られているだけに「あんパン」への関心が大変高かったのも特徴です。韓国人は和菓子を好み、あんこを食べる文化があるため、あんパンのクオリティが高いと、かなり大量買いをしていた人がいた実績も当社では確認しています。
そして、泉佐野という関西空港へ向かう途中に「立ち寄れる店」という情報が「事前に」分かっていれば、おそらく空港に行くために大阪市内を出発する時間を30分程度早めて、HUG BAKERY (ハグベーカリー)へ行く人が増えるように人を動かせるだろう…と考えました。
当社でもこのアドバイスの効果検証をしたいため、当社でブログ発信などを行い、渡航を計画している韓国人客の感想などを今後も把握しながら、注視していこうと考えています。
インバウンドで重要な効果検証指標は消費額です 来訪者数ではない
韓国人が日本に来た時のお金の使い方は上記のとおり。7割がグルメに消えます。
従って、顧客満足度はこの消費先及び消費額でほぼ確認することができるのです。SNSのフォロワー数や、インフルエンサーのインプレッションではありません。国費や民間企業の広告費をかける以上、必ず「回遊時の消費」による対価を勝ち取り、その対価を通じて広域周遊観光のコンテンツに対する評価を得ることを徹底することこそ、広域周遊観光を「継続的に」対象市場の顧客へ提案できる唯一の対策なのです。
日頃から食べている何気ない食べ物であっても、対象市場の顧客にとっては宝の可能性がまだまだたくさんあることをぜひ知ってください。そのうえで、少しでも「定期的な消費対象」として「周遊」が発生するような仕掛けを今後も当社では日本各地に作り上げていきたいと考えています。